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トップ  >  筆硯 Net4Uと在宅医療(県医師会会報誌 09年11月号)
 鶴岡地区医師会では、Net4Uと呼ばれる医療連携型電子カルテを運用し、すでに9年弱が経過しようとしている。Net4Uはインターネットを利用し、医療機関、訪問看護ステーション、老人保健施設、調剤薬局などの間で、カルテの共有を可能としたシステムである。当初はおもに病診連携を目指したが、むしろ在宅医療でその有用性が実証されている。

 在宅医療においては、主治医と訪問看護師との連携のみならず、主治医不在時の連携医、急変時の後方病院、さらにはケアマネジャー、各種老人施設、居宅サービス系施設など介護・福祉系との連携も、より質の高い在宅医療・在宅ケアを目指すには必要となる。在宅医療においては、多職種が連携し、チームで患者の生活を支えるしくみが必要なのであり、むしろ医療者はその一端を担っているに過ぎない。このように地域ぐるみで患者を支えていくには、患者の情報を共有しつつ相互にコミュニケーションできるツールがあれば、より質の高い医療、ケアに役立つはずである。ITはそれを可能にする有用なインフラであり、それを具体化したシステムがNet4Uであると考えている。そのような観点から、当地区では、Net4Uを医療施設のみならず、ケアプランセンター、調剤薬局、介護老人保健施設、特別養護老人ホームなどにも拡大し、薬局、介護系への連携も模索しているところである

 さて、鶴岡・三川地区では、国による、がん対策のための戦略研究「緩和ケアのための地域プロジェクト」(OPTIM)を受託し、がん患者を十分な緩和ケアのもと在宅でも看取れる体制を定着すべくさまざまな活動を行っている。戦略研究の対象地域として、浜松市、柏市、長崎市、そして鶴岡市・三川町の4地域が選定された。浜松市は総合病院、柏市はがん専門病院を拠点に緩和ケアの先進地として、長崎市は市医師会を中心に在宅医療が充実している地域として、それぞれ実績があるが、鶴岡・三川地区は緩和ケアに関しては、整備が進んでいない地域として選定された。しかし、当地区の選定理由のひとつとして、IT先進地区であることも含まれていたのではと推測している。その意味で、在宅緩和ケアにおけるITの有用性を実証することも、このプロジェクトにおけるわれわれの責務と考えている。

 プロジェクトにおけるNet4Uの利用方法であるが、すべての介入患者をNet4Uに登録し、退院カンファレンスシート、退院サマリ、往診時、訪問時の所見、処方などを、在宅主治医、訪問看護師、病院の緩和ケアチームなどとの間で共有できるようにしている。また、病院の緩和ケアチームがカルテをみて必要と感じたときにコメントを書いたり、在宅主治医が病院主治医に意見を求めたり、症例検討会でのプレゼンテーションに利用したりと、Net4Uはさまざまに活用されている。

 一例を紹介する。原発不明の多発性骨転移で、余命半年程度といわれていた42歳女性。ADL低下、痛み、排便困難、高カルシウム血症による嘔気、意識低下などの問題をかかえつつ在宅へ移行した。以後、死亡するまでの約半年間、在宅主治医、訪問看護師、病院内科主治医、病院の緩和ケアチーム、訪問リハビリが、Net4U上で、情報を共有しつつ、熱心に意見交換を行い、協働しながらチームで医療を提供し、最後は在宅で看取ることができた。その間、延べ記載者は11名、延べ記載数は119件に及んだ。事後のヒアリングで、この患者にかかわった主治医は、「自分には緩和ケアに関するスキルもノウハウもなかったが、Net4Uがあればいつでも相談できるということで、在宅主治医を引き受けることができた。これがなければ不可能だった。Net4U上で様々な相談ができたことで、病院の主治医、緩和ケアチームと離れない関係で診療ができた。単なる専門家ではなく、入院中に診てくれていた人に訊けるというのは、内容の充実度が違う」と述べており、終末期緩和ケアの経験の乏しい一般の在宅主治医やコメディカルにとって、病院主治医や緩和ケア専門医と絶え間なく密に情報共有できることが、安心感につながっていたことが示された。

 以上のように、ITはそれを上手に利用することで、とくに在宅を中心とした、地域ぐるみの医療、介護の質的向上に寄与できることは実証でがきたと考えている。一方、課題も少なくはない。そのひとつは、参加医療機関が限られることである。Net4U参加医師は一般に志が高いことが経験上分かっているが、誰でもが普遍的に参加できるようにするには、どんなインセンティブが必要なのか、IT以前に顔の見えるネットワークが必要となるが、そのためにはどのような取り組みが必要なのか、真の意味での普及にはまだまだ課題が山積している。