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最終回:ORCAの展望
本シリーズでは、ORCAを従来のレセコンと比較しつつ、ORCAを選択することのメリットについて述べてきた。さらに加えれば、ORCAは単にレセコンとしての枠では収まりきれない地域の医療IT化の基盤となり得るツールでもある。連載の締めくくりとして、普及への期待を込めながらORCAの未来を展望したい。
診療情報の電子化がなぜ必要か
まずは医療IT化の基本である診療情報の電子化がなぜ必要なのか、再確認しておきたい。以下に紙の診療録の問題点を列記してみる。
他人に読み取れない記録になりやすい(乱雑、略号・・・)
診療上、管理上で必須の記録が欠落しやすい(規格がない、思いつくまま)
表現が多様で統一性がない(日本語、英語、ドイツ語、表現が様々)
診療経過の時系列表示ができない(検査結果、薬歴・・・)
文字と画像の一部しか記録できない(文字の他にはスケッチと写真)
診療以外に利用するには情報の抽出が必要(レセプト、管理資料、臨床研究・・・)
容易に複製ができない(同時に一ヶ所のみで利用可)
保管のための必要なスペースが大きい(カルテは増え続け、古い情報の取り出しは困難)
火災などの災害に弱い(バックアップはないので災害時には弱い)
このように紙の診療録には多くの問題点、そして限界があることには異論がないと思う。次に診療情報を電子化することの利点を挙げてみる。
情報を統合し、管理・検索できる
スペースを節約できる
情報を簡単に引き出せる
検査結果、画像なども一元管理できる
診療情報をスタッフ間、また複数の施設で共有できる
Net4Uは複数の医療機関で診療情報の共有を可能としたシステムで、@医療連携の推進、A医療の透明性の向上、Bチーム医療を行なう者同士の連帯感の向上、C紹介状や訪問看護指示書作成の簡便化、D検査データの時系列表示・グラフを活用することによる、患者サービスの向上、E重複投薬・併用禁忌薬投与の回避など、医療の安全面での向上、など医療の質的向上に寄与できることは、3年に及ぶ運用で示されたと考えている。
蓄積したデータを再利用しやすい
毎月行っているレセプトの作成は、診療情報を電子化したことによりもたらされたメリットとして理解しやすい部分であろう。しかし、電子化された情報の再利用法はまだまだあるはずである。紹介状や報告書作成の省力化、蓄積されたデータを解析、比較、評価することでの各種研究への応用、さらには、将来的には経営分析、医療提言への活用も視野に入るであろう。
診療支援に応用できる
診療ナビゲーションやクリニカルパスの組み込み、医療過誤防止、併用禁忌薬や投与量などのチェックなど、コンピュータならではの機能も今後は標準的に組み込まれると思われる。
以上より紙診療録の欠点の多くは診療情報を標準化、電子化することで解決でき、さらには、電子化により、従来の紙診療録ではなし得なかったさまざまな可能性が実現できそうなことは理解していただけるのはないだろうか。
レセコンは診療情報の宝庫
以上、診療情報を電子化することの利点をくどくどと説明したきたが、賢明な会員の皆さんは診療情報を電子化することの有用性はとっくに理解はしてはいるのだと思う。しかし、そうかといって今まで紙に書いていた診療情報を電子化しようという気にはならない。その気にならない最大の理由は、コンピュータを操作することで発生するさまざまなな手間にあるのではないかと想像する。しかし、よく考えて頂きたい。現在でも、多くの診療情報はレセコンと呼ばれるコンピュータ内に電子化されて存在しているのである。しかし、従来のレセコン内の情報はメーカ独自の規格で保存され、さらには、メーカの思惑で情報を自由に使えないしくみとなっている。折角、事務員が苦労して入力した情報は、単に、窓口での支払い計算やレセプト作成にしか利用されていないのである。これではむざむざと宝の山を切り捨てているに等しいのではないだろうか。
一方、ORCAはどうか。本シリーズで述べてきたようにORCAは、メーカ独自の規格ではなく標準化された診療情報を扱い、情報は消されることなく恒久的に蓄積でき、また、蓄積された情報の再利用に制約はない。すなわち、従来、事務員が行っていた同等の作業で、貴重な診療情報が再利用可能な状態で蓄積されるのである。ORCAだけでも、特定の疾患の抽出は簡単にできるし、日次、月次集計表などのさまざまな帳票の作成も可能である。将来、ORCA対応の電子カルテを導入すれば、過去の資産を無駄にすることなく院内全面電子化もそれ程敷居の高いものではない。私がレセコンとしてORCAを勧める最大の理由はここにある。折角電子化した貴重な診療情報が無駄にならないよう、ORCAの早期導入を検討して欲しいのである。
Net4UとORCA
ORCAとは話が少し逸れるが、当地区医師会では、1997年を情報化元年と位置づけ、積極的に情報化を進めてきた。その成果として、経産省の医療分野におけるネットワーク推進事業に参画し、Net4Uを開発、3年以上にわたり実際の医療現場で運用してきた。Net4Uは、まれな実運用例として全国的にも評価されていることは周知のことである。しかし一方、Net4Uは一部の医療機関で日常的に使われ、医療連携には欠かせないツールになりつつはあるが、利用する医療機関が限られているのが現状である。また、登録患者数も横這いを続けており、真の意味での普及には程遠い状況にあるのも事実である。普及の障害はいろいろあるが、入力の手間が大きな阻害因子である。
もし、Net4UとORCAが連動すればどうであろうか。レセコンであるORCAには、診察ごとに病名、処方、処置などの診療情報が確実に入力されるので、これら情報を簡単な操作でNet4Uに移行できれば、Net4U運用の手間は相当に軽減されるはずである。Net4Uは2−3年後には、次期バージョンへの移行を考えなければならず、現システムとは全く異なるものになる可能性もある。しかし、どのようなシステムに移行しようと地域の中で診療情報を共有するためには、その情報がなるべく手間をかけず電子化されていることが望ましい。このためには、ORCAという共通のレセコンを地域の中で共有することが最も簡便な方法である。例えばORCAが地域の全医療機関に導入されれば、「1地域/1患者/1カルテ」も夢ではない。このように、ORCAは単にレセコンという機能の枠を超えて、地域の医療の質的向上に貢献できるツールとなり得るのである。
連載を終えるに当たって
ORCAは表面上、レセプトソフトに過ぎないが、従来のレセコンとは一線を画す、さまざまな可能性を秘めた医療IT化プロジェクトの核となり得るツールなのである。紙の診療録ではなし得なかった、電子化によってこそもたらされるさまざまなメリットを引き出す情報基盤として普及していくことを期待したい。そのためには、会員の皆様にはORCAの導入をお願いするしかないのである。レセコン買い替え時には、是非、ご検討をお願いしたい。
注:
紙カルテの問題点、電子化の利点については、日医の第3回診療情報提供の環境整備のための講習会 「電子カルテ−その利点と課題−」を参考にした